法律相談コラム

2022/04/03

婚姻費用について

Q 夫と離婚しようと思い、子どもを連れて、実家に帰りました。今仕事をしていないので、生活費に困っています。夫から生活費をもらうことができますか?

A 夫婦が別居する際などに、収入が少ない側が収入の多い側に生活費を求めることができます。その費用を「婚姻費用」と言い、夫に対して、婚姻費用を請求できます。

それでは、婚姻費用について、お話しします。
 
1 婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用をいいます。
離婚することを決めて別居を始めたが、専業主婦だったため収入がない場合やパート等で働いているが生活費が足りない場合などのとき、収入の少ない側が収入の多い配偶者に対し、離婚が成立するまで間、生活費の分担を求めるものです。
 
よく夫側から、「妻は勝手に出て行ったのだから、支払う義務はない。」と主張されることがあります。
民法上、「夫婦はお互いに扶助し合うべき義務を負っており、生活費についても互いに負担し合わなくてはならない」(民法第752条)と規定されおり、お互いを扶助する義務があることから、別居していたとしても、この義務はなくならず、収入の多い側(大抵は夫)は少ない側(大抵は妻)に対し、婚姻費用を支払わなくてはなりません。
  
婚姻費用には、住居費や食費、光熱費などの生活費と、子どもの養育費や教育費、医療費などが含まれます。
 
2「婚姻費用」と「養育費」との違い
よく似た言葉に「養育費」がありますが、養育費とは、子どもの監護や教育のために必要な費用のことをいいます。
一般的には,子どもが経済的・社会的に自立するまでに要する費用を意味し,衣食住に必要な生活費,教育費,医療費などがこれに当たります。
子どもを監護している親は,監護していない親から養育費を受け取ることができます。なお,離婚によって親権者でなくなった親であっても,子どもの親であることに変わりはありませんので,親として養育費の支払義務を負います。
このことから、養育費は、離婚後に両親の間で分担する未成熟子(経済的・社会的に自立していない子)の生活費であり、離婚後、子どもを監護している親に対して、子どもを監護していない親が支払うものです。
しかし、「婚姻費用」は、収入の多い配偶者が少ない配偶者に対し、夫婦が離婚するまでの間の配偶者や子どもの生活費などを分担するものです。
婚姻費用は、子どもの生活費に加えて配偶者の生活費なども分担しますので、一般的に、子どもの生活費の分担の養育費よりも高額となります。

3 婚姻費用の請求ができる場合、認められない場合
⑴ 婚姻費用の請求ができる場合
 ① 収入が多い側が生活費を家庭に入れない場合
 同居中であっても、収入の多いものが生活費等を家庭に入れず、生活ができない場合は、収入の少ない側は多い配偶者に対して婚姻費用の請求が可能です。
② 別居した場合や別居して子どもを養育している場合
  別居中であっても、夫婦の扶養義務がありますので、収入の少ない側は多い配偶者に対して、婚姻費用を請求できます。また、別居して子どもを養育している場合は、子どもの養育費を含めた婚姻費用を請求できます。
⑵ 婚姻費用の請求が認められない場合
 ① 不倫や暴力(DV)により、自らが別居原因を作った場合
 不倫や暴力(DV)が原因で、配偶者が家を出て行って別居した場合は、別居された側が出て行った側に対して、婚姻費用を請求しても、認められなかったり、減額されることがあります。これは、請求する側に不倫や暴力(DV)などで婚姻関係が破綻した主たる責任があり、別居した場合には、請求は信義誠実の原則に反する又は権利の濫用であるとして、認められない可能性があります。ただし、子どもを引き取って監護している場合では、有責配偶者であるかどうかにかかわらず、子どもの養育費相当額のみの婚姻費用が認められることとなります。
   
4 婚姻費用の相場
婚姻費用の金額については、夫婦双方の収入状況や子どもの有無や人数、年齢によって異なりますが、基本的には、夫婦が別居前や別居後に話し合って決めます。
婚姻費を支払う側の収入が高ければ婚姻費用の金額は上がりますし、支払いを受ける側の収入が高ければ、婚姻費用の金額は下がります。
支払いを受ける側が未成年の子供を養育していると、子どもの分の婚姻費用が増額されますし、その子どもの人数が増えると婚姻費用は上がります。
また、子どもの年齢が15歳以上になると、私立学校へ進学したりすると子どもの教育費がかかるようになるので、婚姻費用が上がる可能性があります。  
さらに、重度の障がいがある子どもを養育してる場合は、その治療費等について増額を求められます。
婚姻費用の金額は、当事者が話し合いで決めることとなりますが、家庭裁判所が婚姻費用の取り決めをするとき使われている「婚姻費用算定表」を参考として決める場合もあります。
   
※婚姻費用算定表による婚姻費用のシミレーション
① 夫婦のみの場合
夫(会社員)年収400万円、妻(会社員)年収300万円、子どもなし
→月額 1~2万円程度
② 夫婦、子ども1人の場合
夫(会社員)年収400万円、妻(専業主婦)所得なし、子ども1人(0歳)
→月額 6~8万円
③ 夫婦、子ども2人の場合
夫(会社員)年収500万円、妻(専業主婦)所得なし、子ども2人(3歳,8歳)
→月額 12~14万円
    
5 婚姻費用の支払い期限
婚姻費用の支払い期限は、請求した時から離婚が成立するか、別居が解消されるまでの間とされています。
なお、別居は家庭内別居も含まれますので、離婚を前提として自宅内で別居状態であれば、婚姻費用の請求は可能です。
婚姻費用の支払い義務が生じるのは、婚姻費用の請求の意思が明確になった時と考えられますので、婚姻費用の調停を申し立てた時、または、相手に対し、内容証明郵便等で婚姻費用の支払いの請求をした時点が開始の時と考えられます。
よって、別居後数か月経過し、相手に対して婚姻費用の請求をした場合、過去の別居時にさかのぼって婚姻費用の支払いを求めることは、難しいものと思われます。
そのため、別居したならば、速やかに弁護士に依頼するなどして、相手に対し婚姻費用を請求されることをお勧めします。

6 婚姻費用の請求方法
⑴ 別居前に話し合いで取り決める
婚姻費用を請求するときには、できる限り別居前に夫婦で話し合い、取り決めしておくのが望ましいです。
別居前に取り決めしておくと、別居後直ぐに生活費がもらえます。
取り決めした内容を口約束だけだと、相手が支払いに応じない場合には、婚姻費用分担請求調停の申し立てをしなくてはならないことから、話し合いで合意した内容を書面にしておくことをお勧めします。
⑵ 内容証明を送って請求する
相手が話し合いに応じてくれず、既に別居している場合は、内容証明郵便で請求することができます。
ただし、内容証明郵便で請求しても、強制力がないので、相手が無視すると婚姻費用はもらえません。
⑶ 婚姻費用分担請求調停をする
別居前に話し合っていても相手が支払ってくれなかったり、話し合いがつかなかった場合などは、家庭裁判所に、「婚姻費用分担請求調停」申し立てます。
婚姻費用分担請求調停を申し立てることで、家庭裁判所の調停委員2名に間に入ってもらい、婚姻費用の話し合いを進めることができます。
また、別居しており、離婚を望んでいるなら、「婚姻費用分担請求調停」と同時に、「離婚調停」を申し立てることをお勧めします。
⑷ 婚姻費用分担請求審判で、婚姻費用を決定してもらう
婚姻費用分担請求調停でも合意できなかった場合は、「調停」が「審判」に移行します。「審判」になると、裁判官が夫婦の収入状況や子どもの養育状況などから、妥当な婚姻費用の金額を決定し、相手に支払い命令を出します。相手が審判に従わない場合は、相手の給料や預貯金などを差し押さえることも可能となります。
婚姻費用の請求ができるのは、「婚姻費用分担請求調停を申し立てた時」からとなりますので、相手が婚姻費用を支払ってくれないのであれば、なるべく早く婚姻費用分担請求調停を申し立てることが有利となります。
   
7 婚姻費用分担請求調停の申立て方法
⑴ 申立人
 夫または妻
⑵ 申立先
 相手方の住居地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所
⑶ 申立に必要な費用
 ・収入印紙代 1,200円分
 ・連絡用の郵便切手代
⑷ 申立に必要な書類
 ・婚姻費用分担請求調停の申立書
 ・夫婦の戸籍謄本
 ・申立人の収入関係の資料(源泉徴収票、給与明細、確定申告書の写し等)
   
8 婚姻費用の仮払い
⑴ 婚姻費用分担請求調停を申し立てても、婚姻費用が決定されるまで数か月かかることから、その間の生活費が足らず、困ることがあります。
そこで、婚姻費用分担請求調停を申し立てる時に、「調停前の仮処分」の手続きを利用し、とりあえず先に一定額の支払いを裁判官や調停委員から相手方にお願いしてもらうことが可能です。
しかし、この「調停前の仮処分」は、「困っているみたいだから支払ってあげてくれませんか」と言った程度のもので、法的な強制力が一切ありません。この手続きを利用しても、婚姻費用の一部を支払ってもらうことができない可能性があります。
⑵  しかし、いったん調停が始まってしまえば、「審判前の仮処分」という手続きを取ることで、婚姻費用の支払いの命令を出してもらうことができます。この仮処分の命令が出た場合、相手は婚姻費用を支払わなければなりません。これでも相手が支払わない場合は、この仮処分に基づき、強制執行手続きを取ることが可能となります。
「審判前の仮処分」で、婚姻費用の仮払いを認めてもらうには、婚姻費用の分担調停または審判が家庭裁判所で継続していることが要件であり、また仮払いを求める金額を超える婚姻費用が認められる蓋然性が高いことと、生活上における差し迫った必要性などについて、主張・立証する必要があります。  

婚姻費用の話し合いがまとまらない場合には、速やかに調停・審判を申し立てる必要があります。
しかし、婚姻費用分担調停請求の手続きの仕方がわからない方や相手と冷静に話ができる自信のない方、仕事をしていて調停や審判に出席することが難しい方などは、弁護士にご依頼することをお勧めします。

婚姻費用分担請求をされたい方や、請求されてその対応に困っておられる方は、弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所長崎オフィスの弁護士にご相談ください。
当事務所の弁護士は、離婚問題に経験豊富な弁護士であり、多くの離婚問題を解決しております。


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